「論理・表現」でことばと思考力を豊かにする――新学習指導要領がスタートして

横川 博一先生(神戸大学教授)特別寄稿

2022年9月22日掲載

『月刊高校教育』10月号

 高等学校の英語に新しく登場した「論理・表現」。これまでの「英語ⅡC」「ライティング」「英語表現」の流れを汲むものですが、「論理・表現」=「英文法」を越えて、ことばを生きた場面で使って、考え、表現してみることで、ことばと思考力を豊かにしようという、まったく新しい科目だと考えてよいでしょう。

表現するプロセスを体験する

 新しい「論理・表現」は、話すこと・書くことにフォーカスし、活動を中心に展開するのが特徴です。知識を教え込むというより、知識を運用できるものにするために、活動を通して身につけていこうということです。
 どんなステップを踏んで活動するか、“Should students do volunteer work?”[高校生はボランティア活動をすべきか]をテーマにした活動を例に挙げましょう(引用はすべて「CROWN Logic & Expression I 」三省堂)。まず、「①1.GeneratingIdeas」では、何を話そうか(書こうか)計画を立てる、次に、「②2.Organizing」では、それに必要な単語を引っ張り出してきて、英語の文法に照らして語順を決め、書いてみる、というステップがあります。この伝えたいことをプラニングして、それを形に乗せるという流れが大切です。表現する機会があることで、単語を検索して使う力、文法を使う力、つまり語彙と文法の操作力が鍛えられ、このことが、聞くときや読むときの正確さと流暢さを高めることにもつながるのです。

表現したくなる「仕掛け」を

 もっとも大事なのは、生徒たちが「表現したい」という気持ちになる「仕掛け」です。文法の学習だけをした後に、いきなり “Should students do volunteer work?”と問われても当惑しますね。Have you ever done volunteer work? などボランティア活動について考えてみるところから始めて、誰のためにボランティア活動をするのか考えてみたり、上のようなデータから情報を読み取って、自分の考えを形成する参考にすることもできるでしょう。少しずつステップを踏んで、表現することを繰り返しながら、考えを深めていくことが大切です。三単現の-(e)sや冠詞の用法などは最後に磨きをかければよいのです。

ことばを自分のものに、そして相手のことを考えて使う

 話すこと・書くことの内容をプラニングすることは決してやさしいことではありません。それは誰に向けたものなのか、その目的は何かなど、いろいろなコンテクストを考慮しなければなりません。たとえば、相手に自分の考えを納得させるようわかりやすく伝えるにはどうしたらよいか、説得力を持たせるために二つの考え方を比較・対比して説明しよう、などと相手のことや状況を考えてことばを使う必要性が出てきます。
 その考え方が「論理」で、これをスピーチ、プレゼンテーション、ディスカッションやディベート、(エッセイ)ライティングといった仕掛けでその力を効果的に磨いていこうというわけです。こうした経験によって、ことばを自分のものにし、そして相手のことを考えてことばを使うというコミュニケーション能力を獲得していくのです。この点を評価しようというのが、「主体的に取り組む態度」という観点で、「知識・技能」や「思考・判断・表現」とも密接に関連しています。

 「考える」という活動を授業の中心に据えて、そして、その力をスピーチやディベートといった仕掛けで、物事の考え方と表現することの楽しさと難しさと体感する学びの場にしてみませんか。新しい大学入学共通テストや民間試験のアカデミックな出題内容のTOEFL Junior®(CEFR B2後半まで測定可能)では、筋道を立てて理解・表現できるか、相手を意識してどう表現することができるか、そういった小手先のテクニックが効かない力が試されるものになっています。教室を本質的な学びの場にして、ことばと思考力をしっかり身につけた子どもたちを育てることが、私たち英語教育にかかわる者に強く求められているように思います。
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