主体的・対話的で深い学びにつながる「模擬国連」~中高生が取り組むことの意義と教育効果~

2021年12月8日掲載

模擬国連(Model United Nations;MUN)とは、国連の場を模しながら、生徒が各国の大使となって、地球規模で抱える課題について、その解決策を図りながら、担当国の利益のために議論をする教育プログラムだ。世界の平和と真の繁栄のために、国際社会で活躍できる人材の育成を目指す公文国際学園では、教育の一環として「模擬国連プログラム」に取り組んでいる。全国中高教育模擬国連研究会の代表を務める公文国際学園中高等部・国際部担当教員の米山宏先生に、中高生が模擬国連に取り組むことの意義や教育効果について伺った。

主体的に動き出すきっかけになる

全国高校教育模擬国連大会(AJEMUN)の様子
現在、全国の高校生が参加できる公式の模擬国連大会には、公式言語を英語で行う全日本高校模擬国連大会と、全て日本語で参加できる全国高校教育模擬国連大会(AJEMUN)がある。また、これらの大会のほかにも、大会常連校が主催する練習会議などによって、生徒たちは議論の仕方を学び、実践を積むことができる。
日本における高校生の模擬国連活動は、大阪大学大学院の星野俊也教授が、1980年代から1990年代にかけて、当時上智大学の教授であった緒方貞子氏(前・国連難民高等弁務官)のもとで大学生を中心に開催されていた模擬国連活動を高校生にまで広げたいとの思いから始まった。星野教授は、当時一橋大学客員教授であった中満泉氏(現・国連事務次長兼軍縮担当上級代表)とともに、高校生の模擬国連活動を通じて国際社会でリーダーとして通用する人材を育成したいと考えていた。そして、2007年に第1回全日本高校模擬国連大会が開催され、参加した高校の教員たちがその教育的な価値を共有したことから、模擬国連活動が全国へと普及していった。
参加校は首都圏と近畿圏を中心に年々増え続けているが、書類選考によって選出された学校が参加することになるため、いわゆる“常連校”や“強豪校”が名を連ねることが多く、現在では応募校の半分程度の学校が会議に出られないという激戦状態になっている。また、一部が英語での活動になるため、生徒にとってのハードルは高い。他の英語教員とともに校内での模擬国連活動を指導してきた米山宏先生は、こうした現状に課題意識を持ち、2015年に教員の有志とともに立ち上げた勉強会「全国中高教育模擬国連研究会」(全模研)が中心となって、“だれでも参加できる、高校生の高校生による高校生のための模擬国連大会”と銘打って、2017年に新たに全国高校教育模擬国連大会(AJEMUN)をスタートさせた。生徒の参加へのハードルを下げるため、使用言語は日本語とし、大会の運営自体も高校生に任せている。

「経験」が次の目標につながる

模擬国連は“究極のアクティブ・ラーニング”
模擬国連に関する教育プログラムは、「調べる・話し合う・発表する・創り上げる」という、教員が日頃から生徒に指導している要素が全て網羅されており、指導上の教科特性は問わない。実際の国連の場で議論されるような問題を取り上げるため、もともと公民や地理などの社会科の授業との親和性が高いが、環境問題を扱えば理科や家庭科、保健体育科、関係論文を参照するなら国語科や英語科といった各教科とも関わりが深い。
米山先生によれば、模擬国連は“究極のアクティブ・ラーニング”だという。「模擬国連活動では、学び、発信し、調整を図るという動作を繰り返すなかで、コミュニケーション力、読解力、判断力、リサーチ力、そして英語力とさまざまな力が身につきます。そして、単に自分の意見を述べるのではなく、相手の立場に立って物事を捉えることが求められることが重要なポイントだと言えるでしょう」
生徒は国の代表として議論をするため、担当国に興味を持ち、その現状や課題を調べたうえで、世界平和の実現に向けた解決策を導き出していく。それによって広い視野が身についていくのだ。また、DR(決議草案)の作成などを通して、チームで一つのものを作りあげることの達成感が得られることも教育効果の一つだという。
米山先生は「実践するなかで生徒たちは、『もっと意見を言えるようになりたい』『もっと英語を話せるようなりたい』という目標を持つようになります。そのうえで、たとえば英語学習に関しては、中高生であればTOEFL Primary® やTOEFL Junior® など、自分にとって必要な教材やテストを選択し、自ら進んで挑戦してほしいと思います。主体的に学ぶからこそ楽しい、楽しいからこそ続けられる。模擬国連活動には、生徒たちが熱中できる要素がたくさん詰まっています」と熱を込めて語る。
全国高校教育模擬国連大会(AJEMUN)や全日本高校模擬国連大会には、全国から常連校や強豪校が参加する。部活動として毎日力を注いでいる学校もある。そのため、初めて参加する生徒は、ディベートやスピーチの場面において、その実力や積極性に圧倒されてしまうこともある。しかし、それも成長するために必要な経験の一つだ。米山先生は「たとえ英語で議論する力が備わっていなくても、まずは『経験』することが大切」だという。そして、生徒の成長には主に4つのステップがあると考える。第1に「まずは参加する。そして周りの様子を見る」、第2に「リサ―チして自分の考えを整理する」、第3に「手を挙げて国連大使として発言する」、第4に「いろいろな国をまとめ挙げるリーダーになる」ことだ。模擬国連は、「主体的・対話的で深い学び」につながり、経験を積めば積むほど、さまざまな力が鍛えられていく。生徒たちにとって得るものが大きいからこそ、続けていく価値がある教育プログラムなのだ。

国際社会で活躍する力を身につける

中高一貫校である公文国際学園では、海外の模擬国連に参加して今年で20年目を迎える。2002年度より、年に2〜3回、志願者から選抜された20名ほどが、ハーグ(オランダ)、シンガポール、ニューヨークなどで開催される模擬国連大会に参加してきた。また、学校独自の取り組みとしては、公文国際学園校内模擬国連大会(Model United Nations of Kumon;MUNK)、英語版公文国際学園校内模擬国連大会(Model United Nations of Kumon International;MUNK Int.)を設け、希望すれば中学1年生から高校3年生まで誰でも参加することができる。最近では、米山先生が担当する中学生の地理の授業でも、模擬国連活動を取り入れている。
公文国際学園校内模擬国連大会(MUNK)の様子
「きっかけを与えれば生徒たちは主体的に動き出します。特に高校生にとっては、将来自分がどの分野に進んだらいいのかを考えたり、具体的な夢を持ったりするきっかけにつながっているようです。飢餓問題や地球温暖化問題、核軍縮問題など、模擬国連で取り扱うさまざまな課題に触れるだけでも学びは深まります。生徒たちは、模擬国連活動を通じて、国際理解や英語学習への意欲を高めています」
「自ら学び、考え、判断し、行動する」ことを大切にする同校では、これまで年月をかけて実績を積んできた成果として、多くの卒業生が世界を舞台に活躍している。
卒業生の多くは大学進学後、さまざまな機関や企業で海外赴任をしている話をよく聞きます。もちろん英語の教員になる生徒もいます。なかには、大学卒業後にJETRO(日本貿易振興機構)に就職して、西アフリカのブルキナファソに赴任した生徒もいます。その生徒も在学中は、模擬国連に一生懸命取り組んでいました。卒業生が国際的に活躍している話を聞くと、私もうれしいですし、後輩たちにとってもよい刺激を与えてくれています。卒業生が講演会で話す機会もあり、在校生にとっては憧れの存在です」
近年では、帰国生徒に限らず、海外の大学を目指す生徒も出てきたそうだ。進路や将来の夢についても、視野を広げて考える生徒が増えている。米山先生は、今後も教育の一環として模擬国連活動に取り組み、生徒の可能性を広げていきたいと考える。
「模擬国連の価値は、国際平和を一人ひとりが主体的に考えられる機会を持てることです。世の中には、地球規模のさまざまな問題がありますが、自分たちの幸せを追求するだけではなく、周りの人の幸せを考えられる人になってほしいと思います。生徒たちには、6年間の学びを通して、真に国際社会で活躍する人材へと成長してほしいと願っています」

好きな英語を生かして、将来は国際的に活躍したい

公文国際学園高等部2年 鈴木郁実さん

今年初めて全国高校教育模擬国連大会(AJEMUN)に参加しました。ペアを組んだ生徒と一緒に、議題であった「児童労働」について下調べを十分にして臨んだのですが、他校の生徒の発言力に圧倒されて、思うように発言ができず、中心となって意見をまとめることができませんでした。日頃から校内で取り組んでいるMUNK(公文国際学園校内模擬国連大会)で議論の場に出ることは慣れていると思ったのですが、実力不足を痛感し、悔しい思いをしました。
模擬国連活動を通じて身についたのは、自分が知らないことについても興味を持って深く調べ、考える力、そしてコミュニケーション能力、英語力です。そうした力を生かして、ビーチクリーンイベントを企画運営するなど、積極的に活動するようにもなりました。
公文国際学園では帰国生徒なども多く、友達との会話も英語が飛び交い、リスニング力も伸びますし、授業で海外の教材を扱うこともあり、日常的に英語に触れる環境が整っています。英語はもともと好きで、日頃から海外の動画を見たり、ネットニュースを読んだりするようにしています。中学1、2年生の頃には、TOEFL Primary® も受験し、客観的に自分の英語力を知ることもできました。また、高校1年のときに「プロジェクトスタディーズ」と呼ばれる総合学習の授業で、スケートボードをはじめとするストリートカルチャーについて調査したことから興味が広がり、大学入学後は、ストリートカルチャーの本場であるロサンゼルスに留学をして、現地で文化を学びたいと考えています。
将来は英語力を生かして、国連機関など世界を舞台に活躍できたらと考えています。
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