京都教育大学附属京都小中学校
世界基準の英語テスト「TOEFL Primary®」を活用

2020年10月12日掲載

『日本教育新聞』(日本教育新聞社発行)2020年10月12日号

日頃の学びの成果を測る“健康診断”として

新学習指導要領の全面実施に伴い、小学校高学年で外国語科がスタートした。京都教育大学附属京都小中学校は、多様な言語活動を通して、コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を育む国際的な英語運用能力テストTOEFL Primary® を活用しながら、児童生徒の学習意欲を高めている。

小中9年間の英語教育

急速にグローバル化、情報化する社会を見据え、同校は2000年代初頭より、小中一貫教育の教育システムや小学校英語の研究を続けてきた。10年前には小学5・6年生を中学校舎に移設、2017年度に全国の国立大学附属学校で最初の義務教育学校に移行し、9年間の積み上げの中で未来に躍動する生徒の育成を目指している。
小学校と中学校の9年間を3期に分け、1〜4年の初等部では、学級担任制を基盤に、基礎・基本の徹底を図る。中等部を5〜7年とし、教科担任制を取り入れて学力の定着を図る。8・9年の高等部は、将来の夢の実現に向けて個性や能力の伸張を目指す。
英語は1〜6年生は2単位時間を設定、うち1時間は週3回、15分間のモジュール学習に充て、読み聞かせやフォニックス、語彙や歌などに取り組む。7〜9年生は中学校の標準4時間を設定している。
特に小学5〜中学1年にあたる中等部では、中学内容に入って生じやすい「中1ギャップ」の解消に努めている。5・6年生は、それまでの音声中心の外国語学習に読み・書きを導入し徐々にアカデミックな英語の学びを意識させる。7年生では音声中心の学びを思い出させる機会を作りながら指導している。

活用の場面設定を本物に近づける

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外国語科の9学年の年間指導計画も策定済みだ。学んだことが次の学年で発展的に学べるようスパイラル型の計画を立てている。それぞれの指導案は学級担任と英語科教諭が合同で作成した。初等部の学級担任が得意とする子どもたちが盛り上がる活動の工夫や、教科の視点から見た活動の意義づけなどを共有しながら練り上げている。
全学年にわたり一貫しているのは、児童生徒に、伝えたい内容を考えながら英語を発信する「オーセンティックな(本物の)英語」に触れさせることだ。例えば、2年で場所のたずね方を学んだ後に、3年では学校の周辺の道案内、そして6年では外国人観光客向けの京都の観光案内を考えてみる、といったようにリアルな活用場面を想定した授業を展開する。
英語科主任の今西竜也教諭は「教科書を通して学んだことを現実世界で活用する力を育みながら、子どもたちが英語を学校の外でも使ってみたい、と思える授業を心掛けている」と話す。
暗記や自己主張のスピーチではなく、聞き手により深く伝えるために、声や表情を使って豊かに表現する「オーラル・インタープリテーション・コンテスト」や、タイの中学高等学校との交流、テレビ会議システムを使ったアメリカNASAの特別講義など国際交流も活発だ。
授業や活動の様子は月に1回、英語科便り「FUZOKU ENGLISH POST」を発行し、全児童生徒に配付している。各学年の授業のハイライトや英語関連の行事報告、ALTのメッセージなどを写真つきで掲載する。小学生時代に外国語活動や外国語の経験がない保護者に対しての情報提供、不安解消にも役立つという。
オーラル・インタープリテーション・コンテストでの発表の様子
NASAジェット推進研究所とオンラインで交流

子どもの生活に即した出題

今西竜也教諭
こうした取り組みの効果を測定し、児童生徒へのフィードバックを行うため2年前から、5〜9年生でTOEFL Primary® を導入している。
スコアは成績には反映させず、生徒の今後の学習の目安となる「自己診断」として活用してもらうのが狙いだ。「子どもたちには、スコアレポートを読んで得意なところと苦手なところを探し、この先1年間頑張りたいことを探すために受けて、と伝えている」(今西教諭)。
特別に試験対策の時間は設けず、朝のモジュールで問題文を提示して英文の問いを読む、知らない単語があっても全員で推測して考えるなど出題形式を知る学習のみにとどめている。
TOEFL Primary® の最大の魅力は、「小中学生の日常生活や学校生活に即した題材で出題されていること」と、今西教諭は評価する。TOEFL Primary® は、英語を母語としない世界の小中学生を主な対象としてデザインされている。問題の主な登場人物が子どもで、生活上ありそうな場面が登場するのが親しみやすさのポイントだ。出題意図が理解しやすく、受験への心理的な抵抗感を減らすことにもつながるという。
問題の文章やリスニング内容に触れること自体が、異文化体験にもなる。「ちょうどアメリカの小学校3、4年生が出会うような題材や文章に、本校の児童生徒が出会うことで何か吸収できるものがあるのではないか」(今西教諭)。

学習意欲の向上につながるスコア

結果は、CEFRや英語読書力を示すLexile® 指数とも連動した「スコア」と段階別評価「バンドレベル」が表示される。
さらに、スコアを詳細に解説した「スコアガイド」の日本語訳は、現在の英語力と学習アドバイスが示される。子どもは合否ではなく、現在の立ち位置を確認しやすい。
「オフィシャルスコアレポート」は国内外での各種出願時に英語力を証明する公的資料として活用できるため、将来の大学入試や留学につながる。TOEFL Junior® など、よりハイレベルなテストへのファーストステップとして活用可能だ。
同校での活用にあたり受験初年度の5年次ではとまどう児童も多いが、6年次、7年次と連続して受験することにより「英語力の伸び」を感じられるようになるという。
「大学入試だけではなく、その後の生活においても英語でコミュニケーションが取れる力を伸ばすためのきっかけになれば」と今西教諭は話す。

個別の指導や授業改善に活用

TOEFL Primary® は、教員が児童生徒への適切なフィードバックを行う上でも役立つ。同校では、ALTに積極的に話しかける、教科書をじっくり読むなど、子どもたちの学習スタイルの傾向がスコアに反映されるケースがあり、それは必ずしも定期考査の成績と相関するわけではないという。
そのような場合、スコアガイドのアドバイスを参考にしながら、学習の取り組み状況を振り返り、児童生徒のレベルや興味関心に合った教材を勧めるなど、個人別の指導を行っている。
今西教諭は、「英語を実際に話すときは、相手の話にあいづちを打ったり、自分から話を切り出すタイミングを見計らったり、結論から先に述べるといった力も求められる。定期考査ではそこまで測定しきれない部分がある。英語を使ってみたい、という子どもたちの気持ちの部分を補完的に評価できていると感じる」と、TOEFL Primary® が英語学習のモチベーションにつながることを評価している。
さらにTOEFL Primary® は、教員の指導のブラッシュアップや、国立大学附属校としての研究にも貢献している。
団体実施の場合は、団体レポートと結果一覧表「スコアロースター」が児童生徒のスコアとは別に届く。これを基に、指導の適切さを評価することも可能だ。
今西教諭はCEFRのA1 レベルとA2レベルの児童生徒に共通して、英語の歌が学習意欲を高めることに効果があると分析。また、歌から発音やイントネーションなどを学びやすいのはA2レベルの児童生徒であることを分析している。同じ「英語の歌」でも活用の意図が明確になれば、授業改善につながる。
現在、同校では1〜4年生も希望者を対象にTOEFL Primary® の受験を可能としており、中等部での経験が生かせる可能性も見えてきた。中1ギャップの解消のみならず、9年間全体の英語指導において、TOEFL Primary® が同校の英語教育の充実に果たす役割は大きい。
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