TOEFL Primary® で成長を見える化し英語力向上につなげる…香里ヌヴェール学院小学校

2021年3月24日掲載

『ReseMom(リセマム)』2021年3月24日

香里ヌヴェール学院小学校の英語教育について、イマージョンコースの松岡達也先生に話を聞いた。
香里ヌヴェール学院小学校は、大阪府寝屋川市にキャンパスを構えるカトリックミッションスクール。まもなく創立100周年を迎える伝統のある小学校だ。世の中の急激な変化を受け、2016年より教育改革に取り組み、英語教育(イマージョン教育)、PBL(Project・Problem Based Learning)授業、ICT活用といった先進的な教育で注目されている。

英語教育ではTOEFL Primary® を導入し、児童の英語力の向上を促進しているという。今回は、イマージョンコースの松岡達也先生に、香里ヌヴェール学院小学校の英語教育について話を聞いた。

時代の変化を見越し、グローバル社会を見据えた教育改革

―貴校の教育の目指すところについて教えてください。

香里ヌヴェール学院小学校 松岡達也先生
松岡先生:世の中はものすごいスピードで変化しています。未来を生きる子どもたちに本当に必要な力は何かを改めて問い直し、PBL授業、英語教育(イマージョン教育)を導入し、児童のクリエイティビティ、クリティカルシンキング、コラボレーションスキル、コミュニケーションスキルという、4つのスキルを育てる教育に力を入れています。

PBLとは、チームで協働しながら具体的な課題の解決方法を導き出していく実践型・参加型の学習方法です。これからの世の中は、正解のない難しい課題に立ち向かっていくことのできる人材が求められます。PBLによって、多様な価値観を理解し、クリティカルかつクリエイティブな思考を身に付けること、課題を発見し解決する力を身に付けることを目指しています。

英語教育では、SSC(スーパースタディコース)、SEC(スーパーイングリッシュコース)の2つのコースを設け、日常的に英語を使う環境に身を置くことで自然に英語力を高め、グローバル社会で貢献できる人材としての土台を築くことを目的としています。

―SSC、SECのコースの違いと、具体的な学習内容を教えてください。

松岡先生:SECは60%以上の授業を英語で行うイマージョン教育が特徴です。外国人教員が担任教員となり、学習活動だけでなく、生活指導もすべて英語で行います。いわば、国内にいながらにして留学しているような環境です。

SSCは、日本語での授業が中心ですが、英語の時間は週4時間と、一般の小学校と比較すると倍近くの時間数を設定しています。また、すべての授業に外国人の教員を配置して、普段の授業の中でできるだけ頻繁に外国人教員からのインプット、また外国人教員とのアウトプットができる機会を設けています。授業は、低学年ではフォニックス(発音と読み方の学習)を中心に学習を積みあげ、3~4年生から英語の本をたくさん聞き読みする「多読多聴」へと移っていきます。将来的にはSSCでもオールイングリッシュの授業ができることを目指しています。

―SECは帰国子女のお子さんが多いのでしょうか。

松岡先生:実は帰国子女のお子さんは1%程度にすぎません。保護者も日本人という方が大半です。入学当初は、英語での発言が飛び交う授業にとまどいを感じる児童もいますが、徐々にわかる部分が増えていき、2年生くらいになると普通に授業に入っていけるようになります。

日本人が第二言語である英語をきちんと習得するためには約2,200時間要すると言われていますが、本校SECでは6年間で約4,000時間、英語に接することになります。また、小学生段階で、英語で生活するイマージョン環境下で過ごすことで、リーディングやリスニングはもちろん、受験勉強や検定試験のための学習では習得が難しいと言われるスピーキングによる運用能力の向上も期待できます。

最初は理解がしづらい分、取りこぼしがないよう、SSCのクラスよりも教科学習は内容習得により時間をかけて丁寧に行っています。

―英語力の到達目標としては、どこまでを目指しているのでしょうか。

松岡先生:SSCではCEFR*のA2レベル、SECではCEFRのB1レベルを目指しています。ただ、コース開設4年間ですでにそのレベルに到達する児童がでてきており、そのようすからそれ以上のレベルへ到達する児童が増えてくると感じています。
*CEFR:外国語能力の評価に使われることの多いヨーロッパ言語共通参照枠。A1~C2までの6レベルに分かれている。A2は、慣れ親しんだ内容であれば単純で直接的なやりとりができる、B1は、興味のある話題について複数の文を組み合わせた文章を作ることができるなどの基準が設定されている
スーパーイングリッシュコースのカリキュラム

TOEFL Primary® のスコアで今のレベルを確認

TOEFL Primary® を導入された経緯を教えてください。

松岡先生:4年前の改革で、SSC、SECの2コースを設置して、最初は試行錯誤でしたが、児童の成長に手応えを感じるようになりました。2年目から、児童の英語力を測る指標として、TOEFL Primary® の導入を検討し始めました。

学校内で話し合い、「合否を決めるものではなく、子どもたちが今の自分のレベルを知り、次はどこを目指すべきかを知る手がかりとなるものがいい」と意見が一致しました。小学生にとって、合否イコール成功か失敗かというジャッジを下すのは厳しすぎると思いましたし、そもそもなぜ子どもたちに英語を勉強させるのかを考えたとき、重要なのは合格不合格ではないと思い至ったのです。

TOEFL Primary® は、合否ではなく、スコアと、Step1のテストでは4段階、Step2のテストでは5段階の評価で英語力が示されます。また、世界共通の評価指標であるCEFRとも連動しているため、グローバルで自分がどのくらいの位置にあるかがわかる点もいいと思いました。

また、日本国内だけでなく世界の中での自分の英語力の位置を確認できる評価指標を求めていました。TOEFL Primary® は、世界47か国以上で活用されているテストであり、スコアと、Step1 のテストでは4段階、Step2のテストでは5段階の評価で英語力が示されます。また、これまでに蓄積された膨大な知見データに基づいて設計されているため、より伸長率を正確に測ることができると判断しました。

そして最大の決め手は、TOEFL Primary® の試験問題が極めてCommunicative use(コミュニケーションでの使用)に焦点が当てられていること。つまり、本校の児童は普段から英語で授業を受けており学級内での主要言語も英語であるため、特別なテスト対策をしなくても自然に本来の英語力を測れると考えたからです。

TOEFL Primary® を導入した感想はいかがですか。

オールイングリッシュで行われる授業のようす
松岡先生:まだ導入して3年目なのですが、年々スコアは伸びています。リーディングとリスニングの両セクションで最高ランクの5バッジを取得した児童は表彰されるのですが、2020年度の結果では、7人が表彰を受けました。

英語は言語です。言語能力は点数化しづらく、成長の度合いも見えづらいので、TOEFL Primary® で成長の跡を見える化できるのは、学習者のモチベーションを維持するという点でもとても有効であると感じています。

本校の児童の次の課題はスピーキングですね。TOEFL Primary® は、リーディングとリスニングの力を測るもので、スピーキング力を測るにはTOEFL Primary® Speakingがあります。今後は、このスピーキングテストにも挑戦していきたいと考えています。

目標を自ら設定することを目指す

―受験結果を見て、子どもたちは互いのスコアを気にしませんか。

松岡先生:TOEFL Primary® は点数を競うものではなく、自分が前回からどのくらい伸びたかを見るためのものなんだよと、何度も説明しています。子どもたちも徐々に理解していっていると思います。

―今後は、TOEFL Primary® をどのように活用していくお考えですか。

松岡先生:児童が英語を学ぶ目標として役立っていますし、今後留学を考えるようになってもTOEFL® のスコアは必要になることが多いので、その時にも活用できると思います。

今後は、TOEFL Primary® のスコアをより詳細に見て自分の弱点を知り、次に何を学ぶか、子どもが自分で分析できるようになっていくといいなと思っています。そういう力が身につき、自走できるようになれば、学校を卒業し、社会人になっても、ずっと学び続けることができます。そういう子どもたちを育てたいですね。

真剣に取り組む姿を見せる重要性

―新学習指導要領が施行され、全国の小学校で、5年生から英語が教科化されました。英語の指導に悩む先生も多いと思いますが、アドバイスをいただけますでしょうか。

授業のようす
松岡先生:私は英語教育において次の3つが重要だと考えています。

1つ目は、なぜ英語を学ばせるか、教員が腹落ちしてから始めることが大事です。そうでなければ、「母語ができていないのに英語を始めていいのか」などの議論に、都度立ち止まってしまいます。これから人口減少が予測される日本において、世界各国の人々とともに協働する機会は確実に増えます。社会のニーズを理解し、日々の実践に取り組むことが我々教員に求められています。

2つ目は、英語は教科といわれますが、そうではなく言語であると理解することです。教科ととらえると、成績や点数にこだわってしまいます。言語としてとらえ、赤ちゃんが母語を覚えるのと同じように、子どもたちが興味関心をもって自然に学べる場をたくさん提供してあげることが大事だと思います。

3つ目は、小学校の教員のアドバンテージをフルに活用することです。日本の小学校の良さは、1人の教員が、すべての教科を教えられることです。英語だけでなく、国語や算数、理科、社会でも、教員の工夫次第で児童たちが英語に関心を持つきっかけを盛り込むことができます。日本の小学校教員ならではの利点を最大限に生かし、小学校6年間で児童が英語がより身近なものとして捉え、運用する態度を育て、中学校へと送り出すことが我々小学校教員の役目だと考えます。

―英語が得意ではない先生は、不安もあると思います。

松岡先生:子どもって、教員の英語が上手かどうかではなく、先生が英語を話すときの態度を見ていると思うのです。片言でも、発音が誤っていても、一生懸命話す姿を見せることが大切なのではないでしょうか。

私も、自分の英語にまったく自信がありませんでした。しかし、子どもたちのほうがどんどん英語力を上げて、英語で質問をしてくるので、英語で答えるしかない状況にありました。そしてその経験から、使えば使うほど上達すると実感しています。まずは教員が英語を話すことや学び直すことに意義を持ち、大人も真剣に学んでいるという姿を見せることが大事なのだと思います。

―とても勇気のでるメッセージですね。本日はありがとうございました。

「小学校1年からオールイングリッシュの授業が可能なのか」と抱いていた疑問に対し、帰国子女でなくても1年のうちに授業についていけるようになると聞いて、子どもの適応力に驚かされた。また、筆者も独学で何年も英語を学んでいるが、辛いのは成長が実感できる術がないこと。TOEFL® などのスコア型テストで成長を見える化することは、子どものみならず大人にとっても、モチベーションの維持に有効だと感じた。
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