堺市・私立 賢明学院小学校 世界基準の英語テスト「TOEFL Primary®」を活用

2021年10月11日掲載

『日本教育新聞』(日本教育新聞社発行)2021年10月11日号

小学校では5・6年生を対象とした外国語科(英語)が正式に始まり2年目を迎えている。堺市にあるカトリック系の私立学校、賢明学院小学校(板東正校長、児童数303名)では、1年生から6年間、週2〜3回の英語の授業を行っている。その成果について、これまでGTECジュニアを全児童が受験、実用英語技能検定(英検)を希望者が受験してきたが、CEFRでA1レベル以上の児童も卒業時に半数ほどに増え、今回、国際的な英語運用能力テストTOEFL Primary® を活用することで、さらに児童生徒の学習意欲を高め、世界標準の英語運用能力の育成をめざしている。

英語力の育成

板東正校長

 1960年に設立された賢明学院小学校は、併設している幼稚園とともに、カトリック校の特色を生かした英語教育を伝統的におこなってきた。

 キリスト教的な人間観・世界観に基づき、世界の平和と発展に自ら貢献できる人間の育成を建学の精神としていることから、英語教育は「世界平和」につながる子どもたちのコミュニケーション能力を育むことを目標に、全学年で取り組んでいる。

 併設の賢明学院中学高等学校は、女子校としてスタートしたが、2010年に、カトリック校としては大阪初の男女共学化が実現。それにより、中学受験にこだわらず、カトリック精神に基づく「心の教育」と、受験技術ではなく「生きる力」につながる「自ら考える能力」を身につけるための発展的学習を実践できるようになった。

 高校卒業後の進路は、全国の国公私立大に拡大している。私立大はカトリック系の上智大学や南山大学をはじめ、1学年の生徒数を十分超える有名大学の指定校推薦枠を有する。

 さらに2019年には関西学院大学と系属校協定を締結、高校段階で関西学院大学の教授陣が探究的な学習を行うなど、高大連携教育も進展中だ。「関西学院大学特進サイエンスコース」は、35名×2クラス、70名の進学枠を有する。

 これらの高等学校の幅広い進路保障により、小学校段階から発達段階に応じた英語教育を行うことが、将来の豊かな選択肢につながると考える。

 また、英語以外の教科でも、日ごろの指導の成果が出ている。文部科学省が全国の小学6年生を対象に実施した「令和3年度全国学力・学習状況調査」において、算数の正答率は全国平均70・3%に対して、同校6年生の平均は87%と16%以上も上回る結果となった。国語も全国平均64・9%に対して、78%と、こちらも13%以上も上回る結果を出している。

 小学校では授業以外に、日々の英語学習の成果を試す機会も設けている。希望者を対象にした1週間のオーストラリア夏期ホームステイ体験などだ。現在は渡航が困難なため、オンラインでの交流を検討している。

 コロナ禍が始まる前、6年生は修学旅行でイタリア・ローマとバチカンを訪れた。非英語圏で英語を用いた交流を経験することで、グローバル社会を意識した海外体験ができた。

中学への接続をスムーズにする授業

 小学1・2年は40分授業が週2回。英語の音に親しむため、15名程度にネイティブ教員が1名で、オールイングリッシュで指導し、少人数学習で、習熟度に応じ発話量を確保している。

 3年生は40分授業を週3回、4年生は他教科とのバランスで週2回授業を行う。学習指導要領では、「外国語活動」となっているために日本語での正確な評価が必要なため、担任も授業に入る。

 形式は低学年と同じだが、会話の中に文法事項を取り入れ、どんな時にどんな言い方をするのか、文の構造に気づかせるなど、概念的な理解を促していく。

英語科主任・中村直紀教諭

 5、6年生は40分授業を週3時間に増やし、バイリンガルの日本人英語専科教員が英語7割、日本語3割で授業を進める。

 中学校の英語科との接続を意識し、「前向きに英語学習に取り組めるようなきっかけを子どもたちが得ることができるのが目標。前職のECC外語学院で20年ほど働いてきて、コミュニケーションとしての英語ができなくて困っている人を数え切れないほど見てきたので、自分が関わる児童生徒には将来こんな思いはさせたくない」と話すのは、小学校英語科主任で、小学校5年生から高校3年生までの授業を担当する中村直紀教諭だ。

 近年、小学校英語への期待が高まる中、児童の英語学習の状況や経験は多様化が進む。就学前から英語に親しむ子どもがいる一方、小学校で初めて英語に触れるケースもあり、個人差が大きいので、オックスフォード大学出版のトレーナーと入念な打ち合わせをして決めた教材を使用し、誰もがインプットとアウトプットのバランスが取れるテキストを使用している。また、中村教諭は授業において英語運用能力の向上と同時に、教育理念に基づいた人間性教育を重視する。もちろん授業は中学に向けての準備として、単語は約1500語、文法も中学1年生で習う内容すべて学ぶが、それ以上にアウトプットの時間に多くを費やし、グループやペアでの活動が多い。3回の授業に対して1回は、習った単語や文法を使って、英語でのスキットやプレゼンを入れている。ただ、「他者を認め、困っている子がいたら手を差し伸べる気持ちを育てるのはどの授業でも同じ。自分が知っていることは教え合い、英語で伝えられた、という達成感をみんなが味わえる授業を目指したい。どの教科もそうだと思うが、繰り返し学習をすることで定着すると思うので、早めに学習は進めるが、あくまでも先の学習へのきっかけになれば」と話す。

世界基準で英語力を把握する重要性

 そんな同校が英語教育の理念に合致するテストとして新たに選んだのが、TOEFL Primary® だ。導入の理由はいくつかある。一つは英語の運用能力を世界基準で測定できるテストだったことだ。同校は世界に18の姉妹校を持つ。英語を母語としない小中学生を主な対象としてデザインされたテストを選ぶことは、子どもたちがこれから羽ばたくグローバル社会を意識するうえで役立つと考えた。

 もう一つは大学入試をはじめとする英語に関する各選抜試験への対応だ。大学入学共通テストの英語に見られるように、長文や会話文、資料などを、推論を交えて速読する力は今後、確実に必要になってくる。

 TOEFL Primary® は英語でたずねられたことに対して英語で回答する「英問英答」形式が採用されており、CEFR A1未満からB1レベルの測定ができる。将来、求められる英語の学び方を早期から経験できるのもTOEFL Primary® の良さだと考えた。

学習意欲が自然に高まる題材

グループでの授業の様子

 現在、TOEFL Primary® の受験は全学年の希望者に限っているが、子どもたちの反応が従来のテストとは違うことに、中村教諭は手ごたえを感じている。小中学校の日常生活や学生生活に即したテーマで出題されているのが、子どもたちに新鮮に映ったようだ。

 結果は「合否」ではなく「スコア」と段階別評価の「バンドレベル」で表示され、運用能力の「伸び」が把握できる形で提供される。

 結果のスコアを詳細に解説した「スコアガイド」の日本語訳は、現在の英語力と、学習アドバイスが記述される。自分の英語の力が世界の英語を学ぶ子どもの中で、どれくらいの地点にあるかが実感でき、それが学習意欲の向上につながるという。

普段の指導の自信につながる

 教員から見るとTOEFL Primary® は英語圏の小学生が英語を学ぶような設定で構成されており、テストを通じて子どもたちが異文化の疑似体験ができることがほかのテストにはない魅力だという。

 授業の定着度を測るのではなく、今の児童の運用能力を測定するので、教員にかかるプレッシャーは小さくなる。「むしろ、子どもたちの伸びが可視化されることで、これまでの教え方に自信を持てる教員が多いのでは」と中村教諭は評価する。

 同校の場合、テスト前にサンプル問題を使って、リーディングとリスニングの出題形式などを説明する時間を設けただけで、対策講座のような特別な指導はしていないという。

海外留学をイメージしやすく

 テスト結果として示される「オフィシャルスコアレポート」は、国内外での各種出願時に受験者の英語力を証明する公的資料として利用できる。大学入試や海外留学にも活用できるTOEFL Junior® など、よりハイレベルなテストへのファーストステップとして活用可能だ。

 将来、子どもの海外留学を望む保護者に対して、英語学習でどのような準備を進めていけばいいのかイメージしてもらうきっかけにもなった。

日頃の学びの成果を測る〝健康診断〞

 このような結果を児童が見ることで、モチベーションが上がるのは間違いない。「考える習慣」「話し合い、学び合う学習」を学習指導要領の改訂よりも前、10年近く前から続けてきた結果は、ますます児童を前向きにさせている。

 英語において、中村教諭は「TOEFL Primary® は世界基準で自分がどれぐらいの力があるかが認識できるのが励みになる。児童の英語学習へのモチベーションを上げることが可能で、今、新学習指導要領が求める英語運用能力を測定するのにふさわしいテストではないか」と感じている。日頃の学びの成果を測る〝健康診断〞として、今後も希望者を対象に実施を続ける予定だ。

 子ども、教員、保護者が「受けてよかった」と思えるTOEFL Primary® の導入は、グローバルスタンダードを見据えた小学校英語のあり方の、新たなモデルケースとなりそうだ。

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